★本の評価
就職について考えている学生および転職について漠然と考えている社会人に
オススメの本。日本で働き生きるなら、読んでおいて損は無いです。
★概要
転職をした場合としなかった場合で、
生涯手にするお金を試算すると、
転職をした場合は1億円もの損になる。
ということです。
これは給料だけでなく、交通費や社宅や保険などの福利厚生、
退職金や年金などの老後の手当も含んでいます。
1億というのは言い過ぎかもしれませんが、
的外れではないのも事実だと感じました。
★転職ってどうなんだろう、と漠然と思っている人のための本
もちろん、転職をしなかった人は「もし転職をしたら人生が変わっていたかも」と
ifを考えますが、
「転職をしたら人生は変わる。悪い方に。」
とこの著者は言い切っています。
「“逆の立場なら転職しない”というヘッドハンター」
という例にあるように、
大企業で新卒入社でそのまま勤め上げることが
それなりの大学・大学院を出た日本人にとっては
「一番幸せ」で「後悔が少 ない」
ようです。
★自己都合による転職か否か
私自身、転職の経験があります。
その転職は事情により必須のもので、
そしてそれは自分にとって良い転職だったと思っているのですが
「(会社の倒産など)切羽詰まった状況で転職する」のと
「自分の意志で転職する」のは大きく違うように思います。
業績が安定していてリストラや倒産の不安も無い企業から
自分の意志で転職した場合は、“もし転職していなかったら”という
IF論を考えてしまうからです。
例えば新卒の大学生が、
「内定を断った別の会社に勤めていたら…」と考えるようなものです。
または結婚後数年経ってから
「本当にこの人と結婚して良かったのかしら。
A君と結婚した方が幸せだったかも…」
などと考えるようなものです。
どちらも、その考えが浮かんでも、その時点ではどうしようもないわけです。
個人的に、こういったIF論は、
口に出さずとも誰でも頭に浮かんでしまうものだと思っていますが
転職の場合、
「“統計的に見て”、転職をしない方が金銭的にはお得」ということが
本書の中で明らかにされています。
周囲の反対を押し切って転職をした結果、
入社1ヶ月くらいで前の会社の方が良かったかも…と思いはじめ、
前の会社の同僚の待遇と比較してしまったりなんかすると
しみじみと後悔する、ということです。
(なぜそんな転職者が氾濫してしまうのかという点については
いわゆる転職エージェントなる人材会社のビジネス構造に一因があります)
★自己都合ではない転職について
倒産やリストラ、その他切羽詰まった状況で
転職をしなければならない場合については
本書には一切書かれていません。
私の数少ない経験と、転職した知り合いの状況から感じるに、
そういった状況で転職した場合は後悔が少ないと思います。
IF論が出にくいからです。
「前の会社が倒産してなかったら…」と考えるのは非現実的です。
なので、転職しなければいけない状況にいる場合は
この本の内容は気にしない方が良いと思います。
★実は、学生にオススメの本
これを読んでいて、私はまだ大学生の弟と妹に
ぜひこれを読んで欲しいなと思いました。
なぜなら、「社会に出て自分が何をしたいか」
「どんな仕事が自分に合っているのか」
「どれくらいの給料で、どういう働き方をしたいのか」などを
就職活動をする前によく考えておき、
自分に適している仕事を選び、就職(もしくは起業など)することが
安易な転職を防ぐからです。
「転職したら損をする」とわかっていたとしても、
ムネカタスミトさんの『ブラック企業の闇』にあるような、
ブラック企業(劣悪な労働条件のもとに成り立っている企業)に就職してしまったら
やっぱりどうしても転職という道に頼らざるを得なくなります。
ですので、就職時には、出来ればそういう企業を避けて欲しいと思います。
(そういう意味では倒産とかリストラの可能性が低い
業績が低い企業を選ぶというのも大事ですね。 )
成果主義による年功序列の終焉などが徐々にうたわれてきていますが、
本書で紹介されているデータを見ても、結局まだまだ日本で生活する上では
「一つの企業で定年まで勤め上げる」のが一番良い選択肢のようです。
★それでも転職したい
もちろん、転職をしたり、会社を辞めて起業することで
よりよい人生をつかんでいる人もいます。
その例も少しですが本書で紹介されています。
ただ、「転職で成功する人」はもともと仕事が出来る人で
転職をしている人のなかではごく一部だということが強調されています。
ですので、転職を考えている人は本書に書かれている事実を心に留めた上で
人材会社の誘い文句に惑わされずに、自分の目的をはっきりさせて
転職活動に真剣に取り組むことが大事だと思います。
★注
・この本は日本の労働および生活環境に基づき、
日本国内で働く場合を前提に書かれているので、
アメリカを始め国外で働く場合の転職には参考にならないと思います。
・また、本書の情報には一部間違いがあります。(健康保険の自己負担率等)